ー目次ー
ーLektion1ー ーまず手始めにー
ーLektion2ー ー歌ってみようー
ーLektion3ー ー処方箋としてのブレスー
ーLekiton4ー ー前置き・本題ー
ーLektion5ー ー本題その2
ーLektion6ー ー有節歌曲ー
ーLektion7ー ー伴奏が好きな理由ー
ーLektion8− −伴奏が好きな理由2−
ーLektion9− ー伴奏について最近思う事ー
ーLektion10ー ーF.シューベルトー
−Lektion11ー −歌曲に取り組むー
−Lektion12ー −歌曲に取り組む・その2−
−Lektion13ー ー拍についてー
ーLektion14ー −ドイツ歌曲をグループ分けしてみるー
−Lektion15ー −詩の解釈と音楽表現ー
ー伴奏について最近思う事ー
個別の作曲家についてそろそろ書いていこうと思ったのだけど、その前に、最近伴奏について思う事を書いておこうと思う。手前味噌で恐縮だけれど、伴奏に少しでも興味を持っていただけたら、とても嬉しく思う。
伴奏者ですと人に言うと、合わせるのは大変ですね、と言われたりする。もちろん、こうやって話しかけてもらえたり、ねぎらいの言葉をかけていただけるのはとても嬉しい事ではある。だけど、ちょっと私の伴奏者のイメージとは違うようにも思う。
私は実のところ、伴奏は合わせないことにその理想があると思っている。スイスの音楽学者ネーゲリは、1817年に書いた論文の中で次のように言っているからである。
『ドイツ歌曲は新しい時代にやってきた。それはポリリズムの台頭である。詩、歌唱、伴奏のそれぞれのリズムが、高次元に芸術的なまとまりを成す、という意味でのポリリズムである』
これだけでは何のことか良く分からないと思うので、私はこれを料理に例えてみた。
ドイツ歌曲において、メイン料理を作る人は、やはり詩を歌う歌い手さんである。これは伴奏者の卑下でもなんでもなく(笑)単なる事実である。では、伴奏者は何をするかというと、それにあった付け合わせを作るのである。
仮にメインがから揚げだとしよう。さて、付け合わせは何が良いだろうか?
ご飯と味噌汁はやはり外せないだろう。野菜はキャベツが良いだろうか、レタスが良いだろうか、もう一品何かを作ろうか。こんな風に考え、そしてそれらを最高の水準で作るのが伴奏者であると思う。
その際に考えなければならないのは、同じから揚げ(作品)を作ることになったとしても、歌い手さんが違えば、から揚げは味が変わるという事だ。ある人は油淋鶏のように中華風にするかもしれない、柚子胡椒をつけて出す人もいるかもしれない、あるいはオーソドックスなから揚げかもしれない。揚げ方だって違うだろう。片栗粉か小麦粉かでも違うだろう。それらは本当に千差万別である。
そう考えると、伴奏者はいつも決まった物を同じように作って良いのだろうか。たとえご飯が良いとしても、固めの方が良いかもしれない。味噌汁よりもかきたま汁が良いかもしれない、と常に考える必要があると思われる。
日本で伴奏者ですと言うと、その認識は、料理を作る人なのではなく、料理を手伝う人なのだと何となく思う。つまり、全ての料理を作るのは歌い手さんで、包丁を研いだり、お皿を並べたり、野菜を洗ったりするのが伴奏者であると思われているのだと思う。これは少し残念なように思う。
さて、合わせないことが理想である、というのは、歌い手さんが作るから揚げにいつもオーソドックスなものである必要はない、という事である。私は馬頭琴の伴奏を良くするのだが、その共演者の内モンゴルの方で、納豆が好きな人がいらっしゃる。外国の方が納豆を好きだと言ってくれるのは、日本人として何となく嬉しいなぁと思っていたら、その方は、納豆をパンの上に乗せて、オーブンで焼いて食べるそうである。
この感覚は私たちにはちょっと理解しがたいものがあるかもしれない。だけど、日本人もパスタを和風パスタにして食べるし、私は地味にパンには醤油が合うような気もしている。
何が言いたいかというと、歌い手さんがから揚げを作ったとしても、それをオーソドックスにまとめる必要はないのである。納豆にはご飯ではなくて、納豆にはパンでも良いのだと思う。どちらかと言えば危険なのは、これにはこれだ、という決めつけだと思う。もしかすると、作曲家のレシピには納豆にパン、と書いてあるかもしれない。ヨーロッパでは、チーズ揚げにベリーのジャムを付けたり、シュニッツェル(ウィーン風トンカツ)にもそういう物を付けたりする。
もちろん合わせる部分というのも存在する。だけど、それだけではないのが伴奏だと最近は思う。さて、今度こそ個別の作曲家について書いていきたいと思う。お読みいただきありがとうございました。
井出コ彦
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