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〜伴奏という広い世界〜
      
  伴奏者としての私


ー目次ー
 
ーLektion1ー   ーまず手始めにー
 
ーLektion2ー   ー歌ってみようー
 
ーLektion3ー   ー処方箋としてのブレスー
 
ーLekiton4ー   ー前置き・本題ー
 
ーLektion5ー   ー本題その2
 
ーLektion6ー     ー有節歌曲ー
 
ーLektion7ー     ー伴奏が好きな理由ー
  ーLektion8−    −伴奏が好きな理由2−
  ーLektion9−     ー伴奏について最近思う事ー
 ーLektion10ー    −F.シューベルトー
 ーLektion11ー    ー歌曲に取り組むー
 −Lektion12ー     −歌曲に取り組む・その2−
 ーLektion13ー     −拍についてー
 −Lektion14ー     ードイツ歌曲をグループ分けしてみるー
 ーLetion15ー      −詩の解釈と音楽表現ー

ー歌曲に取り組む・その2ー




前回は歌曲作曲家の音楽記号の違いについて、思うところを書いてみた。
前回書いた事が単なる応急処置にならないよう、伴奏において重要だと自分で思っている、リズムについて書いていこうと思う。



ーリズムについてー


ここで言うリズムというものは、私たちが良く使う、「そこのリズムが違うよ」と言うものではなく、スポーツ選手が時々使う、ゲームのリズムが良くなかったと言う時のリズムや、生活のリズムが崩れたという時のリズムである。何気なく使っているこのリズムとは何だろうか?

色々と読んだり調べたりした結果、リズムという言葉は、流れ行く時の中で、形と形が組み合わさった一連の形であり、なおかつそれがしっくりくる、という事を示唆しているのではないかと今では理解している。


「それ」というのは、ゲームの、であったり、生活の、であったりする。形というと、それが止まっていて固定された状態、と言う風に私は捉えてしまいそうになるが、そうではなく一連の形、ゲームであれば、早い攻撃、遅い攻撃と言った組み合わせ、生活であれば、朝起きて、夜眠り、また朝起きる、という時間の流れの中の一連の形、である。


そして、それらがしっくりくる形であれば、ゲームに善戦するだろうし、自分にとって生活しやすい、という事になるだろうと思う。そういう意味で、リズムとは、その一連の流れとしての形が、何がしかのエネルギーや性質の様なものを持ち、様々な影響をもたらす、とも言えそうである。

もう1つ言える事は、これらの小さな一連の形が組み合わさったり、続いたりすることで、また新しいリズムが生まれる、とも言えそうだという事だ。つまり、一日のリズムが続けば一週間のリズムになり、それがまた組み合わさって続く事で、より大きなリズムとなっていく、というような風にである。


ちなみに、ギリシャ語が語源であるリズムという言葉は、ギリシャ語辞典をひいてみると、多くの意味が出てくる。一般的な意味に加えて、やり方、性質、機嫌などが書いてある。


さて、これがどう音楽に、ひいては伴奏につながるかを書いていこうと思う。


ー音楽上のリズムー


こういう意味でのリズムという観点から見たとき、音楽上にはどのようなリズムがあるのだろう?以前自分が書いた事を基に考えると、音の高低、強弱、調性、メロディー、和声進行、スタッカートやレガート、休符、そういったありとあらゆる形の組み合わせが、流れゆく時間の中で音となって生まれた時、リズムが生じるのだと思う。


スタッカートのメロディーの後、レガートで同じメロディー、反対に先にレガートで、その後スタッカートで同じメロディーというものは、どちらが先に始まるかによって、私たちに違った印象を与えると思う。ある種の和声進行は、私たちに終わりを告げたり、始まりを告げたりする。C-durの響きの後で、a-mollが出てくれば、何がしかの印象を私たちに与えはしないだろうか?四分音符が来るのか、八分音符が来るのか、そういった音価の組み合わせももちろんリズムを生んでいるだろう。


大切な事は、その組み合わせなり、流れゆく中での一連の形がしっくりくるように、私たちが音楽を創造する事である。そうすると、そのリズムが聞き手の方たちに何がしかの影響をもたらすのではないだろうか。それ故に、リズムを作るために、音色であったり、テンポであったり、テクニックであったりといった、考えうる全ての手段を使って表現に努めるのだろうとも思う。

リズムを考える事は、音楽表現上、感性という類の言葉に委ねられているような部分を考える事につながると思う。リズムについて考えることは音楽表現につながる第一歩だとも私は思う。




ー歌曲のリズムー


では歌曲にはどんなリズムがあるのだろうか?

音楽学者ネーゲリは、歌曲とは、3つのリズム、詩、歌唱、そして伴奏のリズムが芸術的に合わさったもの、と言う風に定義している。ネーゲリが私が書いてきた意味でリズムを使ったかは正直なところ分からないのだけれど、これを基に考えていこうと思う。


私は伴奏者であるから、今まで書いてきた事を使って、伴奏のリズムを作る。詩の内容を吟味し、伴奏の楽譜を解釈し、伴奏自体の音楽を作る。小さなリズムを積み重ね、それがまた重なり合い、伴奏のリズムを形成するのだ。

私が作った伴奏のリズムというものは、歌曲作品におけるピースの1つではあるが、歌い手さんが作った歌唱のリズムと私の作ったピースは、上手くはまらない時がある。平たく言ってしまえば、彼、彼女の歌い方と私の伴奏が合っていない場合があるという事である。そんな時は私は、自分の伴奏のリズムを歌唱のリズムにはまるように作り変えていく。


だから、良い歌曲のリズムを作るのには、楽譜から様々な事を想像する事が必要だと思う。良い歌い手さんのリズムに伴奏のリズムを作るのは、それこそ音価を無視したり、書いていないところで早くなったり、遅くなったりもすれば、一瞬の間を取ったりもする。調性の変化を誇張したりもするし、音をぶつけたりもする。反対に融和を目指す時もあるだろう。リズムを追求した結果が、前回書いた事につながっていく。前回書いた事は、分かりやすい音楽記号を眺めてみたけれど、本来は全てにおいて、リズムを考える事が必要なのだと思う。


伴奏者は、後からついて行っても、先にかけて行ってもいけない。歌唱のリズムがしっかりしている歌は、私に次はどんな風に歌うのかをきちんと教えてくれる。私はそれを受け止め、伴奏のリズムを作る。それがとても楽しい時間である。


ーまとめー


分かりにくい部分も多々あると思うのですが、もし質問などがありましたら、聞いていただけると嬉しいです。私自身、まだはっきりしていないところもあるかもしれないのですが、考え続けていきたいと思います。

歌唱のリズムは人によってもちろん違うもので、同じ歌曲のリズムが生まれる事はないでしょう。前回書いたようにやっても、良いリズムを生む時もあれば、悪いリズムを生む時もあるのです。歌唱のリズムに合う伴奏のリズムは、1つの可能性ではなく、沢山の可能性を含んでいるからです。

伴奏をしていると、ふと不思議な感覚に包まれることがあります。それは、歌唱のリズムが鮮明な時、歌い手さんの思いがダイレクトに伝わってくる時だと思うのですが、そういう時は、あらゆる可能性があるはずの伴奏のリズムが1つしか見えない、という不思議な感覚です。そんな感覚に包まれる時、私は本当に幸せだなぁと思います。これからも良い伴奏のリズムを作っていきたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。


井出コ彦



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